「淋しい都に雪が降る」の旅日記


12月3日

北海道東部の端野という町にいます。
ただ今午後2時30分過ぎ。さっき町立の温泉「のんたの湯(多分端野の逆読み)」 に行って露天風呂に入ってきました。もっとガラガラの温泉を予想していたら、日 曜日ということもあって、結構人がいっぱいでした。一緒にお風呂に行ったのは 北海道演劇財団の新堂猛さんです。
カワイイ受付の女の子に「昨日は有難うございました。とても楽しかったです。と 言われました。そうなんです。昨夜は今回の「淋しい都に雪が降る」の北海道旅公 演の初日だったんです。客席数301のとてもお芝居をやり易い劇場に、補助席が 出るほどのお客さんが来てくれまして、反応もとても良くて良い感じのお芝居が出 来ました。公共のホールでこんなに芝居向きの施設はなかなかありませんよ(もっ とも、ここでは五木ひろしショーは出来ないかもしれませんが)。無駄に大きな多 目的ホールじゃなくて、小じんまりした使い易いホールがもっと出きるべきです。 変に高名な建築家の造った、デザイン重視で機能を無視したホールも要りません。 たまに『空から見ると星の形をしてるんですよ』なんて馬鹿馬鹿しいホールもあり ますが、どんな客が空から見るんだっちゅうの!本当に端野のグリーンホールは良 い劇場でした。
芝居を終えた後の交流会も意外に楽しかったです。今回の公演を支えたのは地元の 有志による劇団「ねぎぼうず」の方達でして、その人達と飲んだのです。聞くとこ ろによればMODEの松本修さんが定期的にこの地でワークショップを開いている らしくて、失礼ですがこんな地方の劇団にしては随分意識レベルが高いのに驚きま した。こちらもついつい調子に乗って色々と喋ってしまいした。話を聞いたら、こ ういう劇団を審査するコンテストの審査員の方がよっぽど意識が低かったり、古臭 かったりするのに驚きました。彼らを応援する意味でガンガン喋り、ガンガン飲ん でしまった訳です。きっとあれ以上飲んだら余計な事まで喋っていたでしょう。離 れた席で飲んでいた石井君は、今まで書いた自作の芝居を1時間以内のコンテスト 用の芝居に書き換える段取りまでつけていました。そんなことより今の石井君の場 合は、目の前にある来年1月の流山児事務所公演の台本を書くべきなんですが。

いかんいかん。初日からこんなに長く書いてしまったらこの先が思いやられる。東 京の青山円形劇場のお話なんかはまた別日にしましょう。
それではこれから次の公演先の湧別(ゆうべつ)に向けて、新堂さんと石井君の3 人で出発です。途中サロマ湖に寄って記念撮影でもしようっと!

saroma

夕暮れのサロマ湖なんですが、暗すぎてよく分かんないかな


12月4日

現在は札幌に向かう特急列車オホーツク4号の車上の人です。車窓の両側を囲む小 高い山も白樺の林も斑な銀世界となり、北国らしい光景です。時々スキー場のゲレ ンデや凍りつきそうな水が流れる小川が見えたりします。 昨夜の湧別の公演は最初ちょっと不安でした。広めの会場に250人ぐらいの入り だったので、客席は半分埋まっているかどうかといった感じ。加えてお芝居を見る のに慣れていない方たちが多かったのか、それともいかにものギャグで始まるもの を期待していたからなのか、始めは食いつきが悪かったです。もしかしたらこの辺 の人は浮浪者の生態が分かりにくいのかもしれないとも思いました。何せこんな北 国に路上のホームレスがいる訳はありませんから。でも物語の進行につれて、私と 石井君が真面目に喜劇を演じているのが理解されていったように思います。カーテ ンコールの拍手はとても暖かいものでした。舞台上にいる私たちには分からなかっ たのですが「最後に降る雪は、今日の感じが最高でした」と舞台スタッフが言って ました。

終演後は遠軽(えんがる)という初めて聞いた名前の町に移動。「茂六」なる居酒 屋で、湧別で差し入れに頂いた殻付き生牡蠣10K分をたらふく食べました。今サ ロマ湖周辺では牡蠣が旬だそうです。さらに焼き牡蠣(蒸し牡蠣だったか)も食べ ました。個人的には調理した牡蠣の方に軍配を挙げます。鮑もそうですが生はあん まり好きになれないなあ。ああいった食材は調理してこそのものだとある人も言っ てました。そしてさらにタラバガニもたらふく食べて、ホッケとツボ鯛ってのもお いしかったなあ。北海道のホッケは新鮮で脂が乗っているので皮まで食べてもおい しい。いや、むしろ皮ごと食べた方が口の中でトロッと溶けて、パリッと香ばしく て抜群に美味い。
その後地元のスナックに連れていかれましたが、店の女性が年齢も得体も知れない のと、私たちを呼びつけた酪農家のおっさんが芝居も見ていないのにずうずうしい ことを言うので、カラオケで2曲歌って帰ってきました。

と、ここで窓の外に雪がちらついてきました。通り過ぎる駅の名前は知らないもの ばかりです。

さて今回の「淋しい都に雪が降る」は9年前に小宮孝泰プロデュース第5弾として 初演。好評につき7年前にも再演。そして20世紀の最後を飾るべく、星屑の会の 作品として再々演です。
東京の青山円形劇場での公演は当初の目標の2000人には達しなかったものの、 1700人ぐらいのお客様が来てくれました。私と石井君だけの決して派手とは言 えない芝居にこれだけお客さんが来てくれたんだから良しとしましょう。
内容的にはかなり好評だったようです。観に来てくれた熊谷眞美ちゃんにも「小宮 さんが活き活きしていて面白かった。ルンペンカクテルを飲むとこなんか最高」と 言われました。どうやらいつか水谷龍二さんの脚本で一人芝居をやるらしい大御所 俳優の緒方拳さんも観に来てくれて「面白かったよ」と言って帰ったそうです。ナイ ロン100℃の松永令子さ んやNLTの阿知波悟美さんは終演後楽屋に入って来るなり「きったねエー」と誉 めてくれました。ディナーウィズフレンズで共演した神野三鈴さんはホームレスに 他人事ならぬ思い入れがあるらしく、やたら感激してくれて、他の役者さんに随分 宣伝までしていただきました。 先日「Gセイバー」でお世話になった飯田譲治監督はこれから浮浪者の映画を作ろうかと思っていたらしく「とても参考になりま した」と言って帰りましたが、参考じゃなくて私たちを使ってくれー!

いかんいかん、またこんなに長くなってしまいました。演じる私たちの気持ちや、 演出なんかにつきましてはまた別日にしましょう。
じゃ、私一人だけ(石井君は流山児事務所の稽古のため移動日の今日は東京に帰っ てしまったので)スタッフと離れてグリーン車に乗せてもらっているのをちょっと 気にしながら一眠りすることにします。あ、JR北海道ではグリーン車に乗ると、 おしぼりのほかに飲み物が一杯サービスされます。お金を取られるのかと思って一 瞬躊躇した自分が情けないのであります・・・。
窓の外はコメントできないくらいの大雪になってきました。

train ←遠軽の駅でオホーツク4号を出迎える


12月5日

札幌。時計台の向かいのロイヤルホストにて。午後2時。
今日は北国にしてはちょっと暖かいようで、凍りついていた路の雪もぐずぐずと溶 け出しています。
いやあ、しかし昨夜は飲みました。ま、いつも多かれ少なかれ飲んでるんですけど 昨夜は北海道入りして初めて朝までコースでした。元々は石井君の早稲田の同級生 で、今は私も親しくさせてもらっている不動産屋の菊池君とガンガン飲んでしまい ました。彼には札幌に来るたびに本当に世話になりっぱなしです。感謝!

昨日は移動日だったんで公演はありませんでした。札幌に着いてまずは有志とラー メン屋探し。狸小路の「糸松」を探してたんですが店がなくなったらしいんで、露店 の人に薦められるままに同じ狸小路の「火の鳥」で鉄火ラーメンを食べました。札 幌ラーメンというよりも、和歌山ラーメンに近いこってり味でした。一緒に食べた 人の好みによって評価はまちまちでしたが、一食の価値はあると思います。
ふらっと入った映画館で三池崇史監督の「漂流街」を見ました。この監督らしい無 国籍風味の日本映画です。面白いのですが、ちょいと以前にビデオで三池作品を見 続けてしまっていたのでなんか物足りない気がしました。でも静かな館内で私一人 だけが大笑いしたりもしていました。ということは一見の価値有りでしょう。

その後からスタッフ全員と、今回同行している函館の教員の中田さんに菊池君を交 えてススキノの「西鶴寿司」で寿司をパクつきました。ちょっと失敗したのはお座 敷で食べてしまったことです。やはり寿司はカウンターで食べなければいけません。 大皿に盛ってこられた時点で多少乾いてしまうのです。寿司は握りたてが一番!シ ャリの微妙な温もりも、ヌルッとしたネタも握りたてであればこそです。まあ偉そ うなことを言えるほどの食通でもないんで、基本的にはおいしかったです。ヤリイ カの刺し身も美味かったなあ。
その後札幌では演劇ファンとして有名な可愛くららさんのお店「マカマカ」」へ。一応ゲイバーってことなんでしょうか。私は札 幌に来たら必ず寄る店です。一緒に付いてきたスタッフの女の子二人は、こんなお 店が初めてらしくて終始楽しそうにしてました。私としてはいつものようにくらら さんとダベッてました。明日(これを書いている時点で今日)くららさんがDJを やってるFM番組にゲスト出演して今回の芝居の宣伝をすることなんかがこの席上 で決まりました。
さあ、この辺で菊地君のエンジンがかかり始め60年代風なスナック「アメリゴ」 やら、ショットバーなんかに行った訳でありますが、私も段々ヘロヘロになってし まいました。なんとか空が明るくならないうちにホテルには戻りましたが、目が覚 めたらお昼頃でしたとさ。チャンチャン。



12月6日

またまた飲んでしまった。昨日と同じようなコースを辿ってしまいました。
お酒の話はもういいでしょう。
昨日は札幌の”かでる2・7ホール“という所で公演しました。全体に半円形を意 識した、どことなく青山円形劇場を思い出す劇場でした。使い易さも、見易さも、 聞き易さもなかなか良い感じの劇場です。ちょっとお客さんの数が少なかったんで すが、反応はとても良かったです。さすがに都会なのでホームレス事情も分かって もらえたようでした。でも中央線の中野のことを勘違いしあう件は北海道ではもう 一つピンとこないようなので、この件は私も石井君も自然とはしょるような感じに なってしまいます。それと昨日気になったのは時々石井君が役ではなくて、石井君 そのままに見える瞬間があったりしたことでした。その辺は本人も気付いていたよ うで「今日はちょっと若くなっちゃたな」と終演後の楽屋でつぶやいてました。
昨日は楽屋入りする前に札幌のFM局の番組にお芝居の宣伝で出演しました。FM アップルの『情報探偵団』というラジオ番組です。前日お話したゲイバーのママと もう一人の女性パーソナリティが司会するコーナーです。ママの可愛くららさんは、 昼間見ると普通の小心者のスケベ親父といった印象でおかしかった。やはり夜ほど の勢いはなく、結構常識人なのです。でもさすがに知識量は豊富です。相手の女性 DJも映画の話になると俄然燃え出してました。スティーブン・キング原作の「グ レゴリアーズ」とかなんとかいう映画を「騙されたと思って一遍見てみてください」 と言ってました。本当に騙されるらしいですが。
肝心のラジオ効果ですが、この番組を聞いたよという人には特別に私たちのサイン 入りポスターと楽屋訪問を許可しますと連呼したにもかかわらず、そんな人は一人 も来なかったようです。まあ、実際来なくても宣伝させてもらっただけでもよかっ たとは思っておりますが、グスン。今日から後2日に期待しましょう。
スタジオから雪を見ながら放送したのが印象的でした。

fm_apple ←FMアップルスタジオにて



そう今日ただ今は実は今回の旅公演をコーディネイトしてもらっている北海道演劇 財団の事務所にお邪魔して、この旅日記をフロッピーに落とさせてもらってます。 つまりパソコンをお借りしてしまっている訳です。ちょっとずうずうしいかなと思 っていたのですが、皆さん優しそうな人ばかりなので安心しました。
そう言えばさっき東京のMODEのワークショップでも一緒になったことがある地 元札幌の役者さん斎藤歩(さいとうあゆむ)さんもここに遊びに来てました。いや 仕事に来てたのかな?「お芝居必ず見に行きますよ」と言ってどこかへ行っちゃい ました。
こちらの事務所の方のお話によれば、今日の札幌の最高気温はマイナス6℃らしい です。最高がマイナスですよ。寒い寒い。昨日の夜は吹雪みたいでしたし。
でもこちらの人は平気な顔して街を歩いてるんですよね。
マイナス温度の日でも「今日は暖かいでしょ」なんて挨拶されるんで戸惑います。
さあ、そろそろこの寒い中を劇場に向かうことにしましょう。
北海道演劇財団の皆様有難うございました。

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↑札幌の人も今年のはきれいだと言っていた大通り公園のライトアップ

12月9日

美唄市民会館の楽屋にいます。現在夕方5時10分。
まずは日記を2日も休んでしまいました。ごめんなさい。ざっとまとめて後記いた します。

今日の会場は5年前の「がめつい奴」公演の時にも来ました。人口3万人の古い炭 鉱町なんですが、今日は600人もお客さんが来るそうです。千秋楽に花が添えら れた感じです。
昨日は札幌のベッドタウン北広島市の芸術文化ホールでやりました。シェークスピア劇でもやりそうな中世のヨーロ ッパの劇場を思わせる立派なホールでした。芝居の出来の方は一昨日から見に来て いる作・演出の水谷さんの指示もあって、昨日は良かったと思います。無理なく自 然って感じでしょうか。水谷さんも満足していましたが、私はここまできて最後に もうひとつだけダメ出しをくいました。ある場面の回想の思い入れが足りないとの ことでした。「具体的な場面を思い浮かべろ」と。慣れっこになっていた私として は痛いところをつかれました。
昨夜の宿泊は豪華なプリンスホテルなんですが、まだ閉鎖期間中らしくて我々以外 の宿泊客はゼロ。雪の中に無人に近いホテルの光景はなんだかキューブリックの映 画「シャイニング」のような気分でした。
おまけにレストランも開いていないので、今日の昼飯は昨夜コンビニで買ったおに ぎりとカップヌードルでした。隣室の石井君もほとんど同じような状況だったよう です。プリンスホテルでカップヌードルとは。

あ、そろそろ時間がきてしまいました。
20世紀最後の舞台に向けて準備体操、そしてメイクアップの始まりです。



12月6日は
前日よりちょっとお客さんは少なかったものの、反応は悪くなかった。石井君の旧 友の桐山君らも観に来てくれた。以前私が函館の競馬のイベントでお世話になった サワコーポレーションの方たちも大勢引き連れて観に来てくれました。こうなると そこかしこで転々としながら飲んでしまうものです。



12月7日は
札幌の最終日。昼間は有名な「すみれ」の塩ラーメン。中央市場でタラバを買って 東京に送る(イクラとホッケも)。その後大倉山シャンテを見に行くが、リフト終 了のため上には登れず同行者たちは残念がっていたが、超高所恐怖症の私は実はホ ッとしていた。
終演後は打ち上げ。石井社長や水谷さんも来ていた。
その後私がよく顔を出す北海道のシンガーソングライター福沢恵介さんのお店、夜 景がとってもきれいで、音響設備のきちんとしたステージもあるレストランパブの ファミリーツリーでワインを飲み、最後はまたまたマカマカに顔を出す。

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↑中央市場でタラバ蟹を試食。冷やかしのつもりが結局買わされる羽目に。同行 は初日に「マカマカ」に行った前述の女性スタッフ二人


12月8日は
ガーデンパレスホテルの近所のラーメン屋で確かビルの地下の「弘福」で遅い朝飯。 ホームページ用のほかの原稿を書いたりしているうちに演劇財団の新堂さんが迎え に来て北広島へ。大雪で路面が凍っているので時間がかかった。途中ロイヤルホス トでまた食事。これは完全に太るなと自覚しながらもとんかつ定食を注文してしま っている。そういえば札幌4泊5日でラーメンを6食も食べてしまった。そのうち 1回は明大落研の先輩と飲んだ後の明け方に食べている。処置なし。
ラーメン好きの私としてはもっとマシな形で食べ比べしてみたかったなあ。



12月10日

午後12時10分。千歳空港出発ロビーにて。

いよいよというか、もうというか、やっとというかとにかく帰京である。やっぱり 疲れましたよね。ここまで来るバスの中も寝てたし、たぶん飛行機の中も寝るだろ うし、その後のリムジンバスも寝るでしょう。で、家に帰ってまた寝たい。けど荷 解き、片付け、明日の台詞憶え(日本TVの深夜ドラマ)もあるんですけどね。

昨夜、美唄の千秋楽を盛況のうちに終えました。お子様も多かったんですが、最後 まで飽きないでケラケラと笑ってもらえました。もちろん大人の方にも評判はよか ったと思います。カーテンコールで花束をもらいまして、石井君と二人でいつもよ り長めのお喋りをして舞台を降りました。ヤッタというのとホッとした感じが同時 でした。
余談でありますが、今回の公演では青山から引き続いて私の手作りの「星屑の会カ レンダー」を販売しておりましてお陰さまで50部以上売れました。別に儲けてる 訳ではないんですが、我が家のプリンターで一所懸命作ってくれた嫁さんのことを 思えば、ヨカッタヨカッタであります。
終演後は地元の方のお勧めのイタリアレストラン「メルカート」にて打ち上げ。こ この料理は全て美味しかった。特にパエリア風のようなドリアのような創作ご飯と トマトソースのパスタが美味しかった。そして三上博に似ているシェフ兼マスター にウォッカをご馳走になりました。これは凄かった。唇が痛いほどしびれる。こん なもんガンガン飲んだら雪道でぶっ倒れて凍死しかねませんよ。

ここで飛行機が出発である

この後はもう東京に帰るのみ。この後の日記を書く気力があるかどうか。
でも役者小宮として再々演に思ったことは書くべきでしょう。
もしかしたらちょいと待っていただいて、後でまとめて書き直します。
だって他の原稿もまとめなきゃなんないんだもの


これにて「淋しい都に雪が降る」北海道旅日記の筆を一旦置くことにいたします。




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